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水族館だより

フジツボのセメント

2013.11.15 カテゴリー:生きものダイアリー

皆さんは,生物が出す糊(のり)のことを知っていますか。
生物が空気中に出す糊や,淡水中に出す糊,海水中に出す糊などがあります。

空気中に出す糊で皆さんの頭に浮かぶのはクモの糸や,餌となる生物を捕獲するためのクモの巣でしょう。
また,カイコも糊を出します。絹糸になるのは最後にカイコが糊を出してまとめるからだそうです。
淡水の中に出される糊はザザムシ(カワトビケラの幼虫)が作る水中の網でしょう。
この網は水中にセットされて上流から流れてくる虫や幼虫を捕獲します。
この網は,水力発電の取水管の中にセットされるために,電力会社は迷惑をしているようです。
海水中に糊を出すものには,液滴状の糊を出すフジツボ,アコヤガイ,カキや足糸を出すイガイがあります。
フジツボやイガイは船底や発電所の取排水管に付着して産業上の迷惑をかけています。

フジツボの糊
空気中に分泌されたフジツボの糊(セメント物質)

ここで問題です。上にあげた7種類の生物の中で最も強い力で付着している,
言い換えればもっとも強い接着力の糊を出す生物は何だと思いますか。
普通は,『フジツボやカキかなあ』と思いますよね。
実はクモです。『ええっ,クモの糸は,両手で引っ張ればすぐに千切れるじゃないか。
フジツボは手で引っ張っても取れないぞ』 と思いますよね。

しかし,科学は客観性を大事にします。単位面積当たりの力を考えてください。
フジツボは強固に引っ付いていますが,基盤(付着している相手)との接触面積は数cm²です。
ところがクモの糸は糸の直径が小さいために,
単位当たりの引っ張り接着強度=基盤から剥がすために要する引っ張りの力÷接触面積(Kgf/cm²)を計算すると
10,000であるのに対して,フジツボは1,140,カキは350です。

水の中に出される生物の糊は関心がもたれています。
現在では,多くの糊は大体が空気中でしか接着しません。
しかし,水中生物の出す糊は液体の中でも接着することができます。
ここに,生物から教えられる知恵があるでしょう。

(データは,生物の接着 山本浩之・塚本博一 比較生理生化学1992より)


館長


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